到着から10日ほど経ってようやくそのレビュー動画を公開することができた新型MacBook Pro 16。
M2 Maxチップ構成、12コアCPUに38コアGPU。メモリも96GBにしたカスタマイズモデルの実際の性能(ここがポイント)をインテルMacBook Proで最高性能を誇る2020モデル(AMD Radeon Pro 5600M搭載)と比較しながら各種ベンチマークテストとして写真編集性能の計測にAffinity Photoを、動画編集性能の計測にDaVinci Resolveを利用したリアルな性能差を紹介していく。
レビュー動画は13分ほどもある長い動画だが、結果からいえばその性能に関してAppleが発表している内容は間違ってはいないが、随分と都合のいい結果を並べたものであるということを再確認することができた。
ベンチマークで確認する着実な進化
今回のレビューは実際のパフォーマンスを測ることが主目的ではあるものの、主観を極力省く意味でも定番のベンチマークテストは必要ということで、まずは「Blackmagic Disk Speed Test」「Cinebench」「Geekbench」に加えAffinity Photoに内蔵されているベンチマークツールでのテストを行った。
それら計測からはCPU・GPUともに旧型を2倍か少し上回る性能ということが読み取れ、Affinity Photoにいたっては部分的に5倍ほども高いスコアを記録する処理もあり、噂通りにAppleシリコンは素性が良さそうだということが伺える。
数値通りかそれ以上、快適・高速なレスポンス
この数日間、新型を使っていてずっと感じていたのはその操作レスポンスの良さ。
ただFinderを操作するにしてもウィンドウサイズを伸縮させるにも、もっといえばMission Controlを利用するにもとにかく滑らかで気持ちよくmacOSを利用できるのはとてもいい。
この点旧型になると通常使用を快適にしようとするとGPUの切り替えが必要になる。どういうことかというと、DaVinci ResolveやAffinity Photoなどといった高いグラフィック性能を要求するアプリを起動した時にはインテルCPUに統合された非力なGPUから、より強力なGPUであるAMD Radeon Pro 5600Mに切り替わる仕組みになっている。
切り替わったあとはmacOSがそれなりに滑らかな動作になり、Mission Controlやウィンドウサイズの伸縮などもスムーズになるが、GPUを切り替えた時のデメリットとして消費電力が上がったり、発熱しやすくなるため特に外出時には利用しづらかった。この切り替えがAppleシリコンになってからは必要なくなり、常に滑らかな表示を保ったまま日常の作業ができるようになったが、これがとても快適だということだ。
他にも対象のファイルを素早く確認するためのクイックルックもよりレスポンスよく使えるようになり、この点だけでも進化を感じ取ることができる人もいるはず。
それは次の実パフォーマンス検証の部分をよく見てもらっても伝わるかもしれない。いくつかのテストにおいて再生ボタンを押した直後の反応速度に新型・旧型の間には大きな差がある。
小さなことかと思われるかもしれないが、こういう部分はモノづくりにおいて作業時のストレスを軽減させるための重要な意味合いがあるため軽視できない。
この調子でFusionのみで作り込んだFHDタイムラインや4K・8Kタイムラインにおけるパフォーマンステストのほぼ全てのシーンにおいて一ユーザーとしては感心する場面は多かった。実パフォーマンスを伝えるための微妙なニュアンスを文章で伝えることは難しいので、ここは是非動画の方で確認してもえればと思うが(良い意味でも悪い意味でも)なかなか興味深い内容になっていると思う。
レンダリング速度比較の結果から見えてきたもの
海外のレビューを観ていてもDaVinci ResolveやPremiere Proで素の映像クリップのレンダリング速度を比較するばかりで、実際の業務や作品制作においてどの程度作業が高速化するのかというのが可視化できていない(純粋・単純な性能を測ることが難しい)という思いがあり、それを解決するためのベンチークセットを作ろうとずっと前から考えていたので今回の比較レビューにあたりようやく重い腰を上げて作ったのが「DaVinci Resolve用ベンチマークセット」。
その内容としてはFHDから4K、8Kまでのフォーマット別にタイムラインを作成し、そこにはFusionで作り込んだコンポジションであったり、カラコレ・カラグレに加えシャープエッジやDepth Mapなどといった少し重めのエフェクトを適用したクリップ群を各タイムラインに配置し、そのレンダリング速度を比較するというものだが、全てのタイムラインのレンダリングにかかった時間は少し意外なものとなった。
「実質的な動画編集性能の違いは約2倍」、このテスト結果からはそう読み取れる。2年半(インテルCPU自体は2019から変わっていないが)の進化で2倍高速化というのは今時としては決して小さくはないと思うが、個人的にはAppleシリコン固有のアーキテクチャやグラフィックAPIであるMetalへの最適化でもっと差がつくと思っていたので正直少しガッカリした。
とはいえテスト中ずっとファンノイズ全開かつ電力バカ喰いの旧型とは違い、終始ほぼ無音で消費電力もおよそ半分のM2 Maxな新型はひとつの進化のカタチとしては十分にアリなんじゃないかと思っている。
が、それはラップトップ型だからいえることであって最上位機種であるMac Proではそうはいかない。
今回のテストを見て分かるように実性能は現段階では各種ベンチマーク結果に則した性能であるが、だとすればもし次期Mac Proが無事「M2 Extremeチップ」を搭載し、その性能がM2 Maxの4倍になったとしてもNVIDIA GeForce RTX 4090を積んだWindowsマシンには到底敵わないことになる可能性がある。
GeForce RTX 4090は2022年に発売、現状最高性能を誇るモンスターGPUだが、コイツのGeekbenchスコアはなんと40万を超えている(CUDA)…となればM2 Maxのおよそ5倍ということになるわけで、4倍に高性能化したMac Proが登場したところで発売された瞬間に性能面で負けてしまうことになる(それもおそらくずっと低コストで)。
本当のパフォーマンスというのは実際に試してみないと分からない点が多々あるため断言はできないものの、ここらへんは作成したベンチマークセットをもって今後の検証課題としたいと考えているが、AppleがSoCにこだわってdGPU「的なもの」を開発しないでいるとしたら、そこが将来的なアキレス腱になってしまうかもしれない。
余談「マシンの性能追求」に関する愚痴
この動画、後半部分で出てくるDaVinci Resolveでの検証部分を観てもらえば理解してもらいやすいかと思うがとにかく動作が遅い。いくら現状最高性能であるM2 Maxチップと96GBメモリを搭載したMacBook Proといえど、Fusionコンポジションなどは1フレームを再生するのにも数秒かかってしまう有り様でとてもじゃないが快適ではない。
「快適」…それに絡んだ愚痴を少し。
よく「安いモデルも十分高性能だからそれで十分」というような内容のことを話す人を見かけるが僕からしたら的外れで、性能は十分どころか全然足りていない、今の10倍くらいは欲しいと考えていて、それは「より良いモノ、自分の作りたいモノを作るためには重い処理を多用する必要があるため」だ。
今時携帯電話でも映像作品が作れてしまう時代に「少しキレイめな映像が撮れます、編集もできます」だけでは先はない(突出したセンスと才能と向上心があれば別)、日々同じ作業を繰り返して生きていくことが苦でなければそれでいいのかもしれないが、本人が自分だけの武器を手に入れるためのスキルがFusionやカラコレと見定めた場合、今の標準構成のMBPの性能で十分と言えるのか甚だ疑問だ。
個人的な感想としては、前述のようなことを言う人の多くは自分のスキルや案件がないことを意図せず他人に話していることになるので自分の評価を落としたくないのであれば無闇に話すのは控えた方がいい、「今やってる案件では十分な性能」というのは分かるが、ほとんどの場合はそれを言い訳にしてるだけでパフォーマンスを追求することもせずカラグレやFusionのことを知ろうともせずただ目を逸らしているだけだ。将来的にはそういう人も少しづつカラグレやFusionへと関心が向いていくだろうと思いつつも、この「パフォーマンス」に関する話題を振られるたびにうんざりする。
この動画を観れば一目瞭然だろう、全然足りていないのだ。
グラフィック制作・PVやYouTube用の映像制作をやりつつ、YouTubeでのチャンネル運営サポートやコンサルティング、勉強会といったことを扱ってます。
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