去年の年末あたりだったか、アドビのサブスクリプションサービスである「Creative Cloud(CC)」を解約したことは当サイトとYouTubeコンテンツでも取り上げたとおり。あれから4ヶ月と少しが経過した今、日々の業務はどう変化したのか、アドビの「禁断症状」は発症したのかなどについて説明していく。
2021/07/25追記。
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身の回りからAdobeが消えた先に残ったもの
「Adobe CC解約したら普段の業務が大変になるかもしれない」。最初はこう考えていた。
以前の記事で取り上げたように、ここ数年ほどはアドビ製品ではなくBlackmagic DesignのDaVinci ResolveやSerifのAffinity Designer/Affinity Photoをメインで業務に利用していた僕だが、やはり「使わないけど使いたい時は使える」のと「使わないけど使いたい時でも使えない」というのでは心理的な安心感はかなり違う。最悪すぐにAdobe CCを再契約ということも心の片隅では考えていたが、その心配は必要なかった。
Photoshopが必要なシーン、ゼロ。Illustratorが必要なシーン、ゼロ。Adobe CCを必要とするシーンはこの4ヶ月、一度もなかった。あるのは余計なバックグラウンドタスクがめっきりなくなり、常に開放的な気分で作業に向かい合うことができる最高の環境が構築できたという事実だけだ。
普段のグラフィック業務(web制作や動画内で使うグラフィック)ではAffinity PhotoとAffinity Designerで全てこなし、モーショングラフィックスを伴った複雑な動画編集とポッドキャスト収録にはDaVinci Resolve Studioで過不足無くこなしている。
Adobe CCを解約してしまうと過去に制作したデータが開けなくなってしまうが、ハッキリ言って過去のデータに用もなければ関心もない特異な性格を持つ身としては全部捨ててしまっても良いレベルで気にならない、だから過去のデータを引っ張り出して再加工することもほとんどないため問題は一度として起こらない。
2020/12/21 追記
記載するのを忘れていたが、Adobe CCを解約すると過去のデータが開けないというのはあくまでもAdobe間での話であって、PhotoshopやIllustratorのデータであればAffinity Designer(Photo含む)である程度の互換性を保ったまま開き、そのまま編集することが可能。
アドビ、向いている人・いない人
多種多様なアドビ製品群、そのサブスクリプションへの加入を悩んでいる方のために伝えるべき内容だが先に結論を書く。
結論はズバリ「業務で多人数とやり取りする機会があるならAdobe CCもアリ」、「それ以外(趣味・作品制作)ならAdobeはやめて他を探せ」だ。
常々番組や記事の中でも言及しているように、僕はこれから何かを作り出してみたいといった人には、例えその人が業務利用を目的としていたとしてもアドビ製品を勧めるようなことはしない。
確かに、webなり出版物なりで先人達が残してきた各種情報を集めることによって世界中のどのツールよりも習得速度を速めることができるのは間違いないし、導入する際のイニシャルコストも高価ではない。ただし、やはり約30年という長い年月の間に積み重ねてきただけの鈍重な動作速度と余分な機能、そして改悪を続けているUX(個人的にはIllustratorの自由変形ツール(E)の劣化ぶりが我慢ならない)という、レガシーなツールだからこその大きな弊害があるし、それ以上に大きな問題として「アドビのエコシステムに取り込まれてしまうことへの心配」がある。
少し脱線するが、エコシステムへの心配という話に限っても年初の利用料の値上げにはじまり、記事執筆時、2019年5月中旬頃に世間を騒がせているアドビの強引な規約変更(ドルビー社へのライセンス料不払いが原因の模様)という事実だけみてもはっきりしている。
今やアドビのツールは印刷物を主体としたグラフィックだけでなく、映像やwebなど様々なジャンルで利用されている世界でも類を見ないほど普及したツールとなっているが、そこに業務で関わっている人々はアドビの一挙手一投足に気を配らないとジャンルによっては死活問題といってもいいほどのダメージを受けてしまいかねない(今回は特にDTP)。
話を本題に戻そう、業務としてクリエイティブなことをしていきたいのであれば、1人で活動するのでない限り、必ず多人数が共通して利用可能なキー・ハブアプリ、もしくはデータが必要となるが、写真だとPhotoshop(PSD)がまさしくそれだ。このハブとなるアプリが中心にあるために周囲の人間と環境を合わせる意味でアドビのアプリ(もしくは.psdを扱えるグラフィックアプリ)は「絶対に必要なツール」となる。
ただ、業務利用だとしてもフリーランス、特に外部からデータの流入もなければ流出もないという形態の人間であればそこで使うツールにアドビは必要ではなく、ただ1つの選択肢というだけになる。僕の場合がまさしくそれで、代理店とも契約していない関係上全ての案件がクライアントからの直案件、それも継続案件ではなく新規案件が大半なため過去データとの互換性といった面倒なこと諸々をスルーして常に最新のツールで作業ができるのはこの煩しさを知っている人からすればそれなりに羨ましい境遇といえるかもしれない。
業務でPhotoshopやIllustratorなどを利用している方と話していると他社のツールのことを全く知らないばかりか関心も示さない人が多いことに驚くことが良くあるが、周りを見渡すとAdobe製品と同等かそれ以上の機能を持ったツールはそれなりに溢れていて、さらに嬉しいことにその導入費用はAdobe CCのそれを大きく下回る場合がほとんどだ。その中には新参モノも多く、そういったツールたちは大抵がモダンなプログラミングと、PhotoshopやIllustratorをベースとしつつもそれをより洗練させスマート・快適な使い心地を実現している。
僕はアドビの製品を20年近く利用していて、PhotoshopやIllustrator、PremiereにAfter Effectsなどは業務で日常的に使えるほどのスキルは持ち合わせているつもりだが、そんな僕からしても十分過ぎるほどの使い勝手を誇るAffinity DesignerやAffinity Photo、DaVinci Resolveは国内で業務レベルで使っている人間がそれほどではないのかまだweb上ではなかなか有益な日本語サイトを探し出すことができないのは残念なものの、動作速度や機能性、使い勝手のどれを取っても相当にクールなツールで、それこそAdobe CCが霞んで見えるほど。
それでいて費用も劇的に下げられるため、業務だけではなくホビーユースで購入を考えている人にも勧めやすいツールとなっている。
先に情報が探しづらいと書いたが、この手のアプリは使い方(ショートカットキーやツールの概念・機能など)がPhotoshopやIllustrator、After Effectsといったツールとほぼ同じという事が多く、そのおかげでそれらの基本的な使い方を少し覚えてしまえばすぐに習得していくことが可能になるというのは、特にこれから始めたいと考えている方には安心材料となるのではないだろうか。
アドビは決してクールではない
これまでに様々な企業を買収してきたアドビ。膨れ上がったツールを(良い意味でも、悪い意味でも)うまくパッケージングし、それをブランディングとしてより多くのユーザーを取り込んできたこと自体は凄いことだと思うし学ぶべき点は多い。
だが、敢えて言わせてもらうとAdobe CCは振れば光り輝く「魔法の杖」ではなく、あくまでもただの道具だ。
巷に溢れるAdobe CCに関する広告やPR動画はどれもクールで高いクオリティーであるが、僕にはそれが買い手に対して「誰にでもカンタンにモノづくりができるんだ」という幻想を抱かせるよう仕向けられているように見える。
だが実際はそんなカンタンにモノを生み出せるわけではない。アドビの周りにクールなモノがあるとすれば、それは出来上がった作品そのものでありツール(Adobe CC)ではない。
これは他社のアプリにも言えることだが、モノづくりをする上でツールの使い勝手は重要となるが結局のところ道具から作品が生まれてくるのではなく、作り手自身から作品は生まれてくるのだという意識を持ってもらえるとこの記事で取り上げたツール以外にも色々な選択肢が見えてくるかもしれない。
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割とヒマな人、2019年頃にアドビ製品を全部絶った「脱アドビ」を達成。
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