6月中順頃、現行のMacBook Pro 16インチモデルに突然追加された新型GPU(グラフィックカード / ビデオカード / グラフィックボードなどともいわれる)の「AMD Radeon Pro 5600M」。これまであった多くのGPUオプションの価格をそれを上回る金額で登場したこのGPUで動画編集はどう変わるのか、僕が現在使用しているMac Pro 2013と比較するカタチで検証・レビューした。
結果、長年Mac Proと同等かそれ以上の作業環境を提供してくれるモバイルマシンを待望していた僕にとってこれ以上ないほどよい買い物だったということがわかったが、その理由をこの記事だけでなく動画でのレビューを交えてお伝えしていこうと思う。
Affinity Photo & Affinity Designerでは限界付近での動作速度に違いなし
MacBook Pro自体の簡単な紹介や使用感などの説明については動画でのレビューに譲るが、本記事では動画の中では触れていなかった部分としてAffinity Designerでの動作速度検証とDaVinci Resolveで行っている処理の概要について補足しておく。
Affinity Photoでの検証は動画の中で紹介しているが、そこで解説しているように基本的な動作速度は(体感上は)Mac Proとほとんど同じように感じる。
これはもともとAffinity PhotoがmacOSに最適化されている上にマシンの性能をうまく引き出せる作り(マルチコア&マルチGPU)になっていることがその主な理由だと考えられるが、マシン性能を大きく越えるような巨大なドキュメント(複数の巨大な写真を合成かつ多くのライブフィルタ系の適用など)の処理速度については今回チェックした限りではほぼ違いを体感できなかった。
通常であればそういった極限の状態の方がピーク性能の違いが現れやすいハズだが、お互いのマシン性能をピークまで引き出した結果そうなったのか、はたまた設定の違いやミス、もしくはアプリ側がうまくマシンの性能を引き出せていないのかなどなど考えられる原因はたくさんあるが、この件に関してはもう少し深堀してみる必要がありそうだ。
個人的にはMac Proに搭載されたIvy Bridgeにはない要素(強化されたAVXや新しく追加されたAVX2など)や、アップルが開発したグラフィックAPIであるMETALのこともあり、本来であればAffinityシリーズではMacBook Proに大きく有利に働くと考えている。
Affinity Designerの方は前述したように開いたドキュメントが両マシンの限界を大きく超えるモノであったため開くだけで精いっぱい、開いた後は拡大縮小すらままならないという状態であったため、これをわざわざ比較としてコンテンツに収める必要もないだろうと判断しAffinity Photoでの比較だけとしている。
DaVinci Resolveについてはその操作画面でクリップの再生がカクついていることについて、その素材の素性や大まかな処理の概要を説明させてもらう。
まず、素材についてはBMPCC4Kで撮影した4K30PのBRAWデータで、そこに複数のノードを重ねたそれなりに重いグレーディング処理を行っている。そのため素の状態なら何のひっかかりもなく再生できるハズのクリップがまともに再生できない状態になってしまっている状態だ。
DaVinci Resolveはグレーディング処理のオン/オフを切り替えたり再生解像度を下げるなどして再生負荷を軽減する機能が多数ある(= スペックの高くないマシンでも快適に動画編集ができる)ため、業務の際はこういったスムースではない状態で作業をする事は滅多にないことは断っておきたい。少なくともこの部分だけを見て「DaVinci Resolveはやっぱり重いアプリだ」という判断は誤りで、あくまでもマシンに負荷をかけた状態でテストするための処置だということを理解してもらえればと思う。
「Radeon Pro 5600Mは動画編集者にとって現状最高の選択肢かもしれない」の根拠
僕はこのGPUを搭載したMacBook Proは動画編集にとって、少なくとも僕にとって現状で最高のモバイル環境かもしれないと考えている。
購入から1ヶ月ほど経過しているが、今回のレビュー動画の制作に入るまではMac Proとの直接的な比較はしておらず、体感的には「MacBook Proの方が少しだけ速い処理があるかなあ」程度の認識だったが、ベンチマークテストの結果はともかく、実際の作業速度に関わる部分での比較では我が目を疑うほどの違いがはっきりと出たことに驚くと同時に自分の鈍感さに改めてがっかりしている。
Mac Proと比較すると普段使いでの体感的な差はわずか(鈍感だから気付いていないだけかも)。ベンチマーク結果と大体同じ間隔ながらも実際DaVinci Resolveを利用した動画編集作業の時のレンダリング速度はベンチマークスコアにある数値上の差とは全く違うものになっている。尺の関係で盛り込んではいなかったものの、H.264で撮影された15分程度の圧縮素材をそれほど加工せずにレンダリングした時は7倍ほどの差が出た。
シチュエーションはひとつではないため一概には言えないが、レンダリング速度に限り普段僕が利用するデータや環境においてはRadeon Pro 5600Mを搭載したMacBook ProはMac Pro 2013と比較して3〜7倍ほど高速といってもよさそうだ。
さらに、そんな高性能でありながらノート型でよくある「熱問題」はこのMacBook Proに関しては夏場であるにも関わらずエアコンを利用している環境だとあまり気にならない。
複雑な処理を高速にかつ快適に行えるモバイル環境。これれまでその熱問題が原因でMacBook系に消極的だった僕だが、だからこそ今回のMacBook Proは満足度(TDPがたった50Wなのに高性能 & not 高発熱)が高く、7万円以上もする5600Mをチョイスした意味もあったというものだ。
この熱問題はなかなか今ある機材では映像にしづらいということもあってスルーしているが、今まで僕と同じような理由でMacBook Proを敬遠していた方でも(高くつくがこの構成なら)導入したとしても不満なく使えるに違いない、そう考えるに値する優秀なマシンだ。
例え映像制作が本職でない方でも、本気で動画編集をしていきたいと考えているのであれば長くつき合うという意味でもRadeon Pro 5600M搭載機はオススメだ。
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